Thank You Scientist『Maps of Non-Existent Places』
皆さんは、プログレッシヴ・ロックという音楽を聴いたことがあるだろうか。
プログレッシヴ・ロック、略してプログレ。
これは、ProgressiveなRock、つまり前衛的なロックを意味する言葉だ。
……少なくとも、当初はそうであったようだ。
当時最新鋭の機材を用い、ロックというジャンルにとらわれることなく、自由奔放に構成された音楽。
それが、プログレッシヴ・ロックだった。
いつのまにか、自由で柔軟なものだったプログレの定義は凝り固まってしまった。
変拍子だからプログレだの、長いからプログレだの、70年代以外はプログレじゃないだの、ドリイムなんとかはプログレじゃないだの……とプログレおじさんたちがコチョコチョコチョコチョと内輪でモメている間に、プログレはもはやとっくに過去の遺物。
オタクとおじさんがジメジメした部屋で薄ら笑いを浮かべながら聴く音楽に成り下がってしまった。
しかし、2012年。
ロックの世界に衝撃走る。
ここに来て、まさにプログレッシヴ、新しい音楽を鳴らすバンドが登場、
一発のアルバムを世に送り出し、世界中のプログレおじさんの脳天を揺さぶった。
それがThank You Scientist、『Maps of Non-Existent Places』だ。
Thank You Scientistは、ニュージャージー出身の7人組バンド。
ボーカル、ギター、ベース、ドラム、そしてバイオリン、サックス、トランペットというなかなかの大所帯である。
一見、いかにも冴えないプログレオタク達といった感じの朴訥とした風貌の彼ら。
しかし、鳴らす音楽は抜群にエゲツないのだ。
キャッチーすぎる歌メロ
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仮に彼らの音楽をジャンル分けするとしたら、プログレメタルやジャズメタルといったところになるのだろうが、
そんなまどろっこしい分類はThank You Scientistには不要。
もう誰が聴いても、彼ら独自の音楽にしか感じられないような特徴がある。
まずは、tr.2の「 A Salesman's Guide to Non-Existence」を聴いてみてほしい。
Thank You Scientistの武器の一つは、このキャッチーな歌メロである。
世のプログレメタルバンドが妙なリズムやら妙な音色やらで奇抜対決をしている中、Thank You Scientistはガツンとメロディーで直球勝負してくる。
メロディーの美しさは、Salvatore Marranoの力強くも透き通った歌声によってさらに引き立てられ、陶酔感、多幸感すらもたらすような力を持つ。
このメロディの力によって、曲全体がテクニカルながらも決して難解ではないものに仕上がっている。
めまぐるしいダンスミュージック
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次に、tr.4の「Blood on the radio」。
展開がエグい。もうエグい。
いろんなジャンルの曲5曲を全部まとめて1曲に詰め込んだキメラみたいな曲だ。
6分前後からの急展開なんて、もう笑うしかない。
しかしそれでも、圧倒的にノレる。ノレない瞬間がない。
昨年来日したKing Crimsonのライブ会場には、観客が身じろぎもせず真顔で演奏を聞き続ける一種異様な光景が広がっていたが、このバンドはそういった「ノレなさ」とは無縁。
きっとさぞや楽しいライブを展開してくれることだろう。来日しねえかなあ。
そんなThank You Scientistだが、7月末に新しいアルバムをリリースした。
Youtubeで先行公開されていた楽曲を聴く限り、今回も非常に期待が持てそうだ。
しかも今回のアルバム、ついに日本版が発売されるのである。
ぜひ彼らにはこのまま日本での人気を確固たるものにしてもらいたいところだ。
ということでみなさん、この『Maps of Non-Existent Places』、聴いてみてください。
よろしくお願いします。