Thank You Scientist『Stranger Heads Prevail』
あのThank You Scientistがついに新作を発表!
新作といっても7月末に出たもので、ぼくが記事を書くのを先送りにしていただけなんだけども……
一聴した感想は、「なんだか、大人しくなった?」というものだった。
前作の『Maps of Non-Existent Places』は、一曲に何曲分ものアイデアが詰め込まれたようなエグい展開の曲が目立っていて、
その「どこへ連れて行かれるんだ……」というワクワク感がすごく良かったのだけど、
今作はほとんどの曲の構成に筋が通っているというか、曲全体を貫いている芯がある。
良くも悪くも、オルタナっぽくなったような。
前作でヒシヒシと感じたアンサンブルに対する緊張感も、今回は少し鳴りを潜めている気がする。
けど、何回か聴いているうちに、このアルバムの良さがわかってきた。
確かに展開の破天荒さは薄らいだかもしれんが、大編成が生むブ厚くてヘヴィなサウンドは未だ健在。
楽器隊は相変わらず暴れまわってるんですよ。
それをキャッチーな一曲にまとめこみ、「筋が通ってる」なんて思わせるその手練手管……
これ、聴けば聴くほどすごいぞ。
そしてキャッチーな曲に慣れた頃にやってくるインスト曲「Rube Goldberg Variations」。これがまた凄い。
この曲は前作以上のぶっ飛び具合で、フュージョンを聴いていたかと思えば突然ブレイクビーツが入り、いつのまにかボサノヴァになり……と、一つの主題が気づいた時には全く違う曲調になっている強烈な一曲。初めて聴いたときは、思わず「そんな展開ある!?!?」と叫びながらゲラゲラ笑ってしまった。
その音楽性は相変わらず唯一無二。強いて言えばDiablo Swing Orchestraなんかに近くなっただろうか。
特に気に入った曲は、まずtr.4の「Mr.Invisible」。
これはもうとにかくキャッチー。とにかくまとまってる。ついに4つ打ちなんかやっちゃってるからね。ビックリですよ。「お前らそんなバンドだったか……?」と訝りながらも身体は動いちゃう。そんな曲。
そしてtr.8「Rube Goldberg Variations」。これについてはさっき書いたね。
ちなみにこの曲名は、おそらく「Rube Goldberg」と「Goldberg Variations」を重ねたもの。
Rube Goldbergはアメリカの漫画家の名前で、彼が考案した装置が「Rube Goldberg machine」。これは簡単な作業を複雑なからくりを用いて実行する装置……要するに「ピタゴラ装置」のようなものの総称だそうだ。
そして「Goldberg Variations」はBWV988、バッハの中でも非常に人気の高い一曲。グレン・グールドがレコードデビューを飾る際に選んだ曲としても有名だ。
「Rube Goldberg Variations」。美しい主題がどんなカラクリによってか次々に全く異なる顔を見せていくこの曲にピッタリの曲名といえる(そうか?)
前作は破天荒、今作はキャッチー。確かな演奏技術と類まれなメロディセンスを併せ持つ彼らは、ここ二作で違う顔を見せた。
はたして次はどんな顔を見せてくれるのか、今から楽しみだ。
あとは来日公演やってくれたらもう言うことなし。今から楽しみだ。