Fountains of Wayne『Utopia Parkway』
夏は、いつまで続くのだろう。
小学生の時は、夏休みの終わりがそのまま夏の終わりであった。9月は、いくら暑くてもすでに秋だった。
中高生の時は、衣替えの時期が夏と秋との境目だった。衣替えは10月なので、9月はまだ夏だった。
そして今は、夏季休暇の終わりが夏の終わりであるように思える。夏の定義は小学生の時と同じだが、夏の時期は中高生の時と同じだ。
つまり、何が言いたいかというと、ぼくの中では9月はまだ夏なのだ。
もうこの清々しいジャケットが全てを表してる。
夏ですね。このアルバムは、夏のアルバムです。
Fountains of Wayneは、ニューヨーク出身の4人組バンド。
彼らの特徴は、なんといっても凝りすぎないポップな音と、非モテっぽい歌詞。
まず音だけど、彼らの音はすごくストレートで爽やかなんだよ。もうとにかくメロディがスッ……と心に入ってくる。音圧でごまかしたりとか、楽器の音で奇をてらったりとかそんなことはしない。爽やかな軽い音で、爽やかな軽いメロディを届けてくる。これはもう、好きにならない人はいないんじゃないか。
そして歌詞。爽やかな彼らだけど、歌詞はなんだか非モテっぽい。
今回だとtr.2の「Red Dragon Tattoo」なんかが典型例。
「君のために赤いドラゴンのタトゥーを入れちゃうんだ」って曲なんだけど、
なんだか全体的にヘナチョコなんだよね。
君はぼくを生まれていない人のように扱うのをやめるだろうね
今のぼくはちょっとKOЯNみたいなんだ
もう少し近付いてくれたら
これがペイントじゃないことが分かると思うよ
ウ~~~~~ン。切ない。
急にイメチェンしてきたオタクがクラスの全員にスルーされるのと同じアレだ。
でも、こういう情けない青春に心当たりがある人は案外多いのだろう。
このバンドがフジロックやサマソニに複数回出演するほど日本で受けているのも、この歌詞があってこそのことなのだと思う。
さて、そんな彼らが送り出す2ndアルバム『Utopia Parkway』。
2,3分の短い曲しかないけど、どれもいい曲ばかり。捨て曲はないといってもいいだろう。
その中でも、特に好きな曲を抜き出して紹介する。
まずは1曲目「Utopia Parkway」。
このアルバムの1曲目はこれ以外考えられない。まさにこのアルバムジャケットを思わせるような、気だるげで、でも透き通ったイントロが最高。
盆地のムシムシした夏にぴったりの個人的名曲だ。
2曲目の「Red Dragon Tattoo」も良い。
歌詞は上に紹介した通り情けなくて良いんだけど、極限までポップな音もまたいい。特に間奏なんかすごい。わっかりやすいキーボードに、これまたわっかりやすい手拍子。もう歌詞と相まってダサくすら思えるが、それがまた良い。
そして3曲目の「Denise」。
これはポップのアンセムになりうるようなド名曲ですね。嫌でも身体が動いちゃう。それでいてオラオラ系な押し付けがましさがないのも嬉しい。
4,5曲目も良いんだけど、やはり特筆すべきは6曲目「Troubled Times」。
歌詞も音も爽やかで優しい、このアルバムを代表する一曲。
9曲目の「Amity Gardens」。
これを紹介しないわけにはいかないでしょう。ポップのセンスが凝縮された一曲。そこはかとなく漂う郷愁がいい感じ。
最後に11曲目の「Lost In Space」。
スピード感が心地いい。まさにパワーポップという感じの爽やかな曲。この曲もみんな気に入るんじゃないかなあ。
日本版『ユートピア・パークウェイ』の帯には、「このアルバムが嫌いになれる人なんて、たぶん心が石でできているに違いない。」なんてことが書いてあった。
この文を初めて見た時は「ずいぶん煽るなあ」と思ったのだけど、聴き終わってみて納得した。このアルバムは、本当に誰もが気に入るだろう。
ぜひ、夏が終わる前に聴いてみてほしい名盤だ。
それでは~ ノシ